この記事では、世界一小さい独立国であるバチカン市国がなぜ小さいのか、またどんな人が暮らしているのか、そして国の収入源について紹介します。
バチカン市国はなぜあんな小さい?
バチカン市国が小さい理由
かつてのカトリック教会のトップである教皇は広大な領土を持っていました。しかし、カトリック教会としての独立性を保つため、ラテラノ条約で現在の領土に限定されたのです。
年月 | 略史 |
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64年頃 | ネロ皇帝の迫害のため殉教したイエスの使徒ペテロが、バチカンの丘に葬られる。 |
349年 | ペテロの墓の上に、聖ピエトロ聖堂建設。 |
756年 | カロリング朝ピピンによるローマ教皇に対するラヴェンナ等の都市の寄進(教皇領の始まり)。 |
1870年 | イタリア軍、教皇領ローマに侵入(「ローマ問題」)。 |
1929年 | イタリアとローマ教皇庁との間でラテラノ条約締結(イタリアはバチカン市国を独立した主権国家として承認)。 |
2013年 | 教皇フランシスコ就任 |
その歴史的背景と宗教的な役割を詳しく説明します。
- 歴史的背景: バチカン市国は、1929年のラテラノ条約によって成立しました。この条約は、イタリア王国とローマ教皇庁との間で結ばれ、ローマ教皇の世俗的な権力を認めるものでした。それ以前、教皇はイタリアの中心部に広大な領土を持っていましたが、19世紀の終わりにイタリアの統一運動(リソルジメント)の結果、その領土のほとんどを失いました。ラテラノ条約は、この問題を解決するための妥協として結ばれました。
- 宗教的役割: バチカン市国はカトリック教会の中心地であり、ローマ教皇の住居であるサン・ピエトロ大聖堂を中心に形成されています。その主な目的は宗教的なものであり、大きな領土を持つ必要はありませんでした。
- 独立性の維持: バチカン市国が小さいことで、政治的・経済的な影響から独立を保ちやすくなっています。これにより、カトリック教会は中立的な立場を維持し、全世界のカトリック信者に対してその教えを伝える役割を果たすことができます。
これらの理由から、バチカン市国はわずか0.44㎢(東京ディズニーランドと同じぐらい)の面積しか持たない、世界で最も小さい独立国となっています。
ラテラノ条約以前のローマ教皇の「教皇領」は?
ラテラノ条約以前の教皇領は中央イタリアの大部分を占めており、その領域は現在のイタリアのラツィオ州、ウンブリア州、マルケ州、エミリア=ロマーニャ州の一部などを含んでいました。
教皇領は8世紀から19世紀の終わりまで存在しました。19世紀の終わり、イタリアの統一運動(リソルジメント)の過程で、イタリア王国が成立し、教皇領の大部分がイタリア王国に併合されました。1870年にローマがイタリア王国に併合されたことで、教皇は事実上の世俗的な権力を失いました。その後、1929年のラテラノ条約により、バチカン市国が成立し、教皇は再び独立した領土を持つこととなりました。
ローマ教皇の世俗的な権力とは?
ラテラノ条約によって保障されたローマ教皇の権力について補足します。
「世俗的な権力」とは、宗教的な権威や神聖な権力とは異なる、物質的・現世的な事柄に関する権力や権威を指します。具体的には、国や地域の統治、法の制定・執行、軍事的な力、経済的な力など、日常の生活や社会の運営に関わる権力を意味します。
例えば、中世ヨーロッパにおいて、教皇や僧侶は宗教的な権威を持っていましたが、一部の教皇や僧侶は「世俗的な権力」も持っており、土地を所有したり、軍を持ったり、税を徴収したりすることができました。このように、宗教的な役職を持つ者が、宗教の枠を超えて政治や経済の面での権力を持つことを「世俗的な権力を持つ」と言います。
世界一小さいバチカン市国にはどんな人が暮らしている?
バチカン市国が小さいことがわかったら、そこに暮らしている人のことも気になりますね。教皇以外にどんな人が暮らしているのでしょうか。
バチカン市国の人口は非常に少なく、約800人程度とされています(2021年時点)。この小さな人口は特定の職務や役割に従事する人々で構成されており、以下のような種類の人々が主にいます。
- 聖職者: ローマ教皇をはじめ、枢機卿、司教、神父、修道士など、カトリック教会の聖職に就いている人々。
- 修道女: 修道院や教会で働く修道女もいます。
- 教会の職員: カトリック教会の行政や運営に関わる一般職員。
- スイス衛兵: バチカン市国を守るための専門の軍隊。スイス国籍を持つカトリック信者でなければならないという独特の条件があります。
- 外国人労働者: 教会の施設の維持やサービス業などで働く外国人労働者もいます。
- 外交官: バチカン市国は多くの国と外交関係を持っているため、外交官やその家族も一定数います。
バチカン市国の市民権は非常に限定的で、主に上記のような特定の職務や役割に基づいて付与されます。市民権はその職務や役割が終わると通常は失われます。
バチカン市国の市民権を得るには?
バチカン市国の市民権は、他の国々の市民権とは異なる特性を持っています。バチカン市国の市民権は、血統や出生地に基づくものではなく、特定の職務や役割に基づいて一時的に付与されるものです。
以下はバチカン市国の市民権を得るための主な方法です:
- 特定の職務に就く: ローマ教皇、枢機卿、司教、神父、修道士、修道女、スイス衛兵、教会の高位の職員など、特定の職務に就いている人々は、その職務を持っている間、バチカン市国の市民権を持つことができます。
- 外交官としての任命: バチカン市国は多くの国と外交関係を持っており、外交官として任命された人々やその家族も市民権を持つことができます。
- 特別な許可: 一部の例外的な状況下で、特別な許可を受けて市民権を得ることができる場合もあります。
重要な点として、バチカン市国の市民権は一時的なものであり、上記の職務や役割が終了すると、通常は市民権も失われます。したがって、永住権や永遠の市民権を求めるのは難しいと言えます。
世界一小さいバチカン市国の収入源は?
バチカン市国は、その小さな面積と人口にもかかわらず、いくつかの主要な収入源を持っています。
以下はバチカン市国の主な収入源です:
- 観光収入: バチカン市国は世界的な観光地であり、サン・ピエトロ大聖堂やシスティーナ礼拝堂などの名所を訪れる観光客からの収入が大きな部分を占めています。観光客は入場料を支払うほか、公式の土産物店での購入も収入源となっています。
- 博物館の入場料: バチカン博物館は世界で最も訪れられる博物館の一つであり、入場料が重要な収入源となっています。
- 出版: バチカンは多くの宗教的な書籍や文書を出版しており、これらの販売からの収入も得ています。
- 郵便切手とコイン: バチカン市国は独自の郵便切手とコインを発行しており、これらの販売からも収入を得ています。特にコレクターや観光客からの需要が高いです。
- 不動産: バチカンはローマや他の場所に不動産を所有しており、これらの賃貸収入も収入源となっています。
- 寄付: 世界中のカトリック信者や団体からの寄付も、バチカンの収入源の一部となっています。
これらの収入源を通じて、バチカン市国はその運営資金を確保しています。
主としてイタリアを始めとするEU諸国からの輸入に依存。2015年の教皇庁財政収支は1,240万ユーロの赤字。ただし、歳入は7,400万ユーロ(世界の教会から2,400万ユーロ、バチカン銀行から5,000万ユーロ)。なお、バチカン市国は5,990万ユーロの黒字(主な収入源はバチカン美術館の文化事業。)。2015年以降の財政収支は公式に発表されていない。教皇庁資産は非公開。
外務省 バチカン市国 経済概況
観光収入はいくらぐらい?
バチカン市国には無料で入国でき、サン・ピエトロ大聖堂も無料で見学することができます。しかし、ミケランジェロの「最後の審判」などの有名な壁画のあるシスティーナ礼拝堂は事前予約によるチケット購入が必要です。
チケット購入は現在17ユーロであり、日本円で2680円です。
システィーナ礼拝堂には夏季には1日2万人が訪れることがあります。つまり、1日あたり5千3百60万円の収入があることになります。
まとめ:バチカン市国はなぜ小さい?
最後に、この記事のポイントをまとめます。
- ローマ教皇はかつてイタリアに広大な領土を持っていた。
- イタリアの統一運動(リソルジメント)により、ローマ教皇はその領土をほとんど失った。
- ラテラノ条約により、カトリック教会を維持するための最低限の領土とローマ教皇の世俗的権威が認められた。
- 小さいことで、他国からの政治的・経済的な影響を受けにくく、独立を保ちやすくなっている。
- バチカン市国には800人が暮らしており、カトリック教会に関する仕事をしている人が大半である。
- バチカン市国は観光収入、出版、郵便切手とコイン、不動産、寄付などの収入源がある。
以上です。